東大阪は広い。昭和42年に布施市、河内市、枚岡市が合併し誕生した人口自治体は、61k㎡。性格の違う街を内包し、顔を持たない自治体としての市政はもう51年が経とうとしています。
そんな中でも特に、週刊ひがしおおさかの編集部がある旧河内市エリアはベッドタウンとしての性格が濃厚。ニュータウンブームの頃と同じくして田畑から開発された入り組んだ住宅地が広がります。
今回取り上げる「支那そば 灯が花 幸奴(こうど)」も、東花園駅から南へ徒歩15分。住宅街の真ん中にあります。
2018年1月にオープンし、4月に有名ラーメンブロガーに発見されるとたちまち人気店になります。と同時に話題になったのはその立地。私たち河内っ子からすれば日常に近い「家ばかりの風景」に現れたハイレベルなラーメン店に、東大阪市の事情を知らない多くの人はInstagramやTwitterへ次々と投稿します。
さらに驚くべきは、そのお店が美容室の間借りだと言うこと。よって営業は金曜日から日曜日の夜と、月曜日の昼間のみ。それでいて、ぴあの発行する「ラーメン関西本」にも掲載される本格派。
尖りすぎてる今最も注目のラーメン店に、週刊ひがしおおさかは気合いを入れて行ってきました。
お店を切り盛りする、オーナー兼シェフの戸井さんは45歳。バリバリ団塊ジュニア世代で、21歳で故郷の四国から大阪に出てきたと言います。
「3年ほど、田舎で美容師をしていて大阪に出てきました」
ラーメン店店主として紹介しようとお話を聞いていると、出てくるのは主に美容師としての経歴です。四国で修行をし、大阪で就職したのが東大阪市の美容室チェーン。さらに2005年に独立すると、心斎橋に店を持ち「ミナミのイケてる美容師さん」だったと言います。
そんな戸井さん、2年前に「イケてる美容師はやりきったかなって思って。ここを本店にしよう」と現在の新池島町に居を構えます。
席数は8席ほど。大きいとは言えないまでも、個人経営には十分な規模で心機一転。地域に愛される美容室「CORD」をスタートされます。
そんなある日、ひょんなことからお客さんにラーメンを出すことになります。
「91歳の女性なんですが、お腹が空いたって話になったんですよ。ちょうどその時、ラーメンを作っていて『食べていかれますか?』と聞くと、食べたいと。それをおいしいと言って食べてくれたんですよ」
お父さんが割烹の料理人。親戚にもイタリアンやフレンチのシェフが多く、飲食店一家の中で育った戸井さん。学生の頃にアルバイトをしていたラーメン店の味をベースに料理人としての知識を加味したラーメンを、ご自身で作っていたのです。
しばらくすると、ラーメンを食べた女性のご家族が「いったい何事」と問い合わせが。そりゃそうだ、高齢の家族が「美容室でおいしいラーメンを食べた」なんて言ったら、何かがあったと思うのが普通です。
そんなご家族に、よかったらと自身のラーメンスープを販売。これまた評判が良く、次に心斎橋時代からのお客さんたちにも進めるとここでも好評を得ます。
これは、いけるかも。と手応えを感じます。
91歳の女性にもその家族にもおいしいと評価されるラーメン。それを自信にして、2018年1月に自身の美容室の間借り営業で「支那そば幸奴」をはじめます。
幸奴のラーメンは、熟成醤油豚骨。ノーマルから「炙り焼豚肉玉特大(スクラムラーメンというらしい)」まで、5段階で肉やたまごを調節できます。
確かに醤油。でも見た目とは裏腹に油のズシッとくる味ではない。むしろスッキリした食べやすさがある。四国で食べたこれ系のラーメンはもっと濃さがあったぞ。幸奴は、どちらかと言えばあっさりと言っていい。
「それ、たぶんカエシですね」
と戸井さん。大阪の伝統「しょう油ラーメン」に挑むことを前提に、その前段階の味で勝負して…など、そこからは出てくる出てくる料理の知識。それが全て論理的。
10代の頃におぼえた老舗の四国のラーメン店の味に、料理人としてのベースの知識を加えてこの一杯が出来上がる。ウンチクも含めて技術的な話を経て、そのうち編集長前田と人気ラーメン店談義に発展します。
恐るべき知識量と情熱。
この情熱を支えるものはなんだろう。美容室を営業し、さらにラーメンをも完璧にしようとする行動力を支えるもの。
「この辺りね、何もないんですよ。ご存知かと思うんですけど、住宅ばかりでスーパーすらない。ちょっとでも明るくしたいなと思って、こんなこと始めたんですよ」
美容室の中での営業とあってか、平日は周辺の女性客が多いと言います。確かに、今はやりのいわゆる”意識高い系のラーメン店”は女性には入りにくい店構えなのかもしれません。
さらに幸奴のメニューには、サブと見せかけて本格派の欧風カレーも並びます。
新メニューに「カリカツラーメン」も仲間入り。
「カリカツラーメンはスープに清湯のしょう油を入れて、最適化されたカレーを作ってます」
とこれまたぶっ飛んだメニューで、来る人を驚かせます。どうしてここまで違う方向で凝るのでしょうか。
「僕の中では、ジャパン食堂って構想があるんです。この辺りでもう一軒借りて、ラーメンやカレーなどのとがった店が一つの場所をシェアする。お客さんに望まれるものを提供する場所を作るプロジェクトですね」
確かに言われてみれば、幸奴は単純なお店ではありません。トッピングの種類が多かったり、定食が用意されていたり。
オタクがいるラーメンとカレーに全力で取り組む。オタクに向けたマニアックさと、街の食堂としてのメニューのバリエーションが同居する面白い構成です。
美容院とラーメン店の二毛作店?いやいや、近いうちに「三毛作」にもなっちゃうよ。
週刊ひがしおおさかはそれをずっと定点観測しなければ。それが地域メディアとしての使命でも有りましょう。
ラーメンには夢がある。地域に、そこに住む人々をひっそり照らす灯となれ。
■支那そば 灯が花 幸奴(こうど)
住所:東大阪市新池島町2-7-13
TEL:072-981-9595
公式サイト:Twitterあり
定休日:火曜、水曜、木曜
営業時間:月 12時前から麺がなくなり次第終了、金・土・日 19時から麺がなくなり次第終了
駐車場:なし
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