使い古された単語「あと一歩」をあえて使う。関西大学リーグを制し15年ぶりに大学選手権の準決勝に進んだ京都産業大学(以下 京産)は、今シーズンの優勝候補帝京大学(以下 帝京)に前半は23-10。残り8分までリードしながらも、悔しすぎる逆転負け。最終スコア「30-37」は、国立に集う多くのラグビーファンから賛辞の拍手が浴びせられた。最強のフィジカル軍団に対抗するまっすぐな突破も好感を得た要因だろうか。

キャプテン平野が何度も突破した。
しかし、反感を買うことを恐れずに言えば、それはよく知らない弱者に対する視点。関東の多くのファンにこのスタイルが浸透していなくとも、京産はこのスタイルで混戦の関西大学Aリーグを戦い、チャンピオンになったのである。
試合後の記者会見も、記者は皆「帝京に通用した部分」を聞く。それに対して廣瀬佳司監督は
「通用したのではなく上回っていた」
と言い換えて、真っ直ぐに当たっていくアタックを「フィジカルにダイレクトにプレーすることを意識した」と返した。

記者会見での平野主将と広瀬監督。
今季の大学選手権は急遽関西から4チーム出場した。経緯はさておき京産、近畿大学(以下 近大)、天理大学(以下 天理)、同志社大学(以下 同志社)が順位に応じてトーナメントに組み込まれた。
試合運びで慶應義塾大学に勝てなかった近大。
最後までベストメンバーで戦えなかった天理。
タレント勝負で帝京に大敗した同志社。
そして自分の強みを前面に出してスタンドを味方につけた京産。

どよめきを喝采に変えていく京産。
関西を制したチームが関東の中位チームに大敗する時代を経て、関西は確実に強くなった。これまで大学選手権で善戦する関西のチームは、漏れなく関西を圧倒的力差で”通過”し満を辞して全国に登場するタイプだった。まさに昨季の天理がそれだ。「全国で戦うためには関西でもたついていてはいけない」と言われていた。
今季の京産は違う。チームの始動も遅れ、優勝候補に挙げられることは多くなかった。リーグ戦を一つずつ勝っていき、気がつけば全勝優勝していた。関西リーグを戦いながら強くなり、接戦をモノにして準決勝で優勝候補に肉薄した。関西は強くなった。

関西大学Aリーグを7戦全勝。
とはいえ、京産は帝京に勝てたのか。14船曳のトライ直前のノックオンがなければ、勝つ可能性は上がったのだろうか。京産のキーマン7三木は「後半に当たり負けないフィジカルとそれでも落ちないスピードを身につけたい」と記者会見で答える。
関東との差ではなく、帝京に勝つにはフィジカルが足らない。フォワード全体は戦えたが、後半にスクラムを押されたのは強くて大きなプロップがいないからだ。その限界が顕在化されたとも言える。たしかに昨季の天理はとんでもない選手層だった。
基本的に関西に人は残らない。何年かに一度、人材が揃ったチームがそこそこ善戦する。何十年続く構図だが、今日の京産の活躍は、今の関西大学リーグの状況なら変えられるかもしれないとさえ感じさせられた。

本人も「トライを取れた」と感じたという、直前のノックオン。
京産はプロップ以外の主力が来年も残る。敵陣でペナルティを得てPGを奪っていく今季の戦術はおそらく可能だ。
昨季の日本一メンバーがごっそり抜けて、1年かけてチームを作り直した感のある天理は伸び代が一番とみる。
本来なら今年が黄金世代だったはずの同志社は、個から組織への転換が非常に楽しみだ。
今年ようやく花開いた近大は、4年生が抜けることと何より日本代表クラスのプロップ紙森がいなくなるのが大きい。
他のチームも変革が進む。やってみなければわからない混戦の関西の勝敗がそのまま全国につながれば。昔のラグビー少年が早明戦のテレビ中継を見て憧れたように、関西大学リーグをネットで見て具体的な目標にする。そんな日へ一歩踏み出すきっかけになる試合が2022年1月2日の大学選手権準決勝だ。

京産がかっこいいと思った多くの人達の期待に答えよう。
そう思い明日からまた積み上げていこう。そして私たちはそれを伝えていこう。より多くの人がラグビーを楽しみ、ほんの少しだけ人生が豊かになるように。
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