東大阪ものづくり会社探訪、第2回目は株式会社テンキング。え?テンキング?何の会社?
「これが弊社の商品ですね」
と見せてくれたのは代表取締役社長の金星章大(かなぼしあきひろ)さん。何かの金属部品で、回転しそうです。
「ビデオデッキのシリンダー、、、高速で回転しながらテープの磁気情報を読み取る部分です。読み取る位置がずれると動画が再生できなくなるので、高い加工精度が要求されます。」
テンキングの創業は50年前。超個性的なテンキングという社名は、創業者である金星さんのお父さんの故郷大分県杵築市十王台の「十(テン)王(キング)」から。創業当時はオーディオのツマミなど光沢のある金属部品の切削加工を行っていました。その後超精密加工のノウハウを蓄積されて、ビデオデッキのシリンダーの作成を手がしけるようになったんだとか。
「初期のビデオデッキはとても高額で、大手の放送局が業務用として持つのが精一杯だったんです。薄いテープを1mm以下の単位で動かすような機材は、大量生産が不可能だったんですよ」
そんな高額商品の量産を可能にしたのが、テンキングの技術です。精度が要求されるため、
「技術がすごい中小企業として経済誌に登場するくらい、その世界では有名な会社なんですよ」
と笑いながらその雑誌を見せてくれる金星さん。確かに、某大手家電メーカーの会長さんが推薦する企業として名前が上がっています。10社ほどメーカーが名を連ねる中、大阪では唯一!正真正銘の技術企業です。
家庭用ビデオデッキが爆発的に普及した1980年代後半から、テンキングは急成長。本社は東大阪ですが、大分にも工場を持ち、1994年にはタイ工場をオープンします。
「会社員をしていたら父が突然『タイに工場作るから、会社を辞めてテンキングに入れ』って言うんでびっくりしました(笑)」
金星さんは、縄手南小学校出身。大阪大学大学院を卒業され、世界中の人が知る電機メーカーに就職。基礎技術研究をされていた、バリバリの理系!研究員さんです!!
1994年、大手家電メーカーがタイに進出する流れでテンキングもタイ工場設立。金星さんも工場開設から20年間、日本とタイを行ったり来たり。今もご家族はタイに住まわれています。
でも、ビデオデッキのシリンダーだと今は・・・。
「言いにくそうにしなくてもいいですよ(笑)2000年代にDVDが普及し、ビデオデッキの需要が減ると、もちろんシリンダーの生産量も減りました。かつて国内外500人いた従業員も今はタイに50人ほど。大分工場は閉鎖し、大阪本社にも社員は数えるほどです」
500人が50人。現在は特殊なビデオシリンダーや半導体関連部品など、長年培った技術でマイクロオーダー(μメートルの精度が必要な製品)に答えているんだとか。
でも、事業縮小という暗い話をしていても、金星さんは後ろ向きな話にはなりません。これからのモノづくりについて熱く語り、そして手品を見せるような笑顔で新事業の話に。
「メーカーの新事業というと、何かものを作る話ばかりになりがちですが最近始めたのは検査事業なんですよ」
超精密加工を生業としているテンキングには、加工だけでなくその超精密な製品の検査をする技術も自然に備わっていたのです。今は高級化粧品の瓶やスポイドの検査などを手がけているんだそう
「うちがやっているような超精密切削の技術は、もしかしたらもう必要ないのかもしれない。でも直接その技術が活かせなくても、そこで培ったことは応用できるはずです。ちょうど20年前に研究職だった私がこの世界に入った時のように」
東大阪は長くモノづくりのまちでした。昨今社会環境が変化して、企業数も減り、苦境に立たされているといいます。でも今までに培ったのは、削ったり叩いたりする技術だけじゃないはず!
よし、明日からまた頑張るぞ!
文・写真:前田寛文 @MaechanYK
会社データ
会社名:株式会社テンキング
住所:大阪府東大阪市楠根1−7-46
TEL:06-6746-7566
公式サイト:http://www.tenking.co.jp/
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