普段は東大阪に本拠地を置くサッカーチーム「FC大阪」を取材している週刊ひがしおおさかですが、今日はお隣奈良で活動する「奈良クラブ」に関する記事です。
というのも、昨年12月、奈良クラブのホームページで「観客数を水増ししていた」とのリリースがありました。
この問題はJFL(日本フットボールリーグ)やサッカーだけでなく、どのスポーツでも有り得ること。
奈良クラブの浜田満代表取締役社長より、2020年シーズンの所信表明とあわせ経緯の説明が行われるとあって、取材してきました。

会場はホテル日航奈良。
FC大阪が2月25日に認定された「Jリーグ百年構想クラブ」。奈良クラブは2013年にすでに認定済みでした。
JFLに所属するチームがJ3に参入するには、
・年間観客動員数30000人
・年間順位4位以内のうちJリーグ百年構想クラブを保有する上位2クラブ
をクリアする必要があります。
Jリーグ百年構想クラブを保有しているチームが苦戦するのが、「年間観客動員数30000人」。昨シーズン、東京武蔵野シティFCは観客数が届かず、J3への参入を阻まれました。
奈良クラブは、この条件を満たすために2015年から2019年シーズンまで、観客数を水増ししていました。

昨シーズンの第27節・奈良クラブvsFC大阪。公式記録では5102人の発表でしたが、実際は3762人でした。
2015年シーズン「昇格の可能性を高めたい」「昇格を目指している他のクラブに負けたくない」「集客を頑張ってくれているボランティアスタッフ、選手、クラブスタッフに成果を感じさせたい」との思いから、当時のNPO法人理事長矢部次郎氏の指示のもと、水増しがスタート。
2016年〜2018年には、それが常態化していました。
2019年シーズンは止めようと臨んだものの、思うように集客が伸びず3試合めから再び水増しに。一般入場者数に、足してはいけない数(ボランティア、飲食スタッフ等)をプラスして、1.3を掛けて発表していました。1試合平均にすると500人プラスで、最大差異は1340人。
水増し問題が発覚したのは、2019年11月29日。第3節(3月31日)vsホンダロックSC戦の観客席の写真を「公式発表と明らかに人数がおかしい」と観客がSNSで発信。その後、JFL(日本フットボールリーグ)事務局による調査が始まり、事件が明るみになりました。
このとき社長を務めていた中川政七氏は、責任を取って2020年1月31日で辞任。現在は浜田氏が社長に就いています。

浜田満社長。今年の2月に就任したばかりです。
JFL側もこの事態を見逃していたわけではありません。2019年4月に試合運営スタッフがJFL事務局に「水増し行為疑惑がある」と内部告発。これを受け抜き打ちで2回視察に来ていました。
1回めは、4月14日第5節vs流経大ドラゴンズ龍ケ崎戦。しかし、この日は悪天候で観客数が少ない日でした。水増ししてもバレてしまうとの思いから、実数で入場者数を発表しました。
2回めは、7月27日第17節vs東京武蔵野シティFC戦。この日は台風の影響で観客数が少なく、JFL事務局によるカウントが行われませんでした。
JFLによる視察を2度もかいくぐり、結局、最終節まで続けてしまいました。

テレビカメラだけで6台。当初は1時間の予定でしたが、記者からの質問が多く、2時間に渡って行われました。
結果、JFLの規約に以下の2項目が加わり全クラブが実施することになりました。
①入場者数確認表の提出
入場者数を公表する前に、試合を担当するマッチコミッショナーに入場者数確認表を提出。これが認められると、スタジアムで入場者数の発表ができるようになります。
②後半の中盤にスタジアム全景の写真撮影
後半の中盤(15分くらい)にスタジアム全景の写真を撮って、観客数の証拠を残します。
また、奈良クラブ独自で入場者数カウントの方法も変えます。
昨シーズンまではもぎ取ったチケットの半券で入場者数をカウント。今シーズンは、入場口で2人体制で計測カウンターにてカウントを実施します。来場者数が3000人を超える場合は、入場口を2箇所にする予定です。
今シーズン奈良クラブがやらなければいけないことは、Jリーグ百年構想クラブに再認定されること。現在は解除条件付き失格となっています。
再認定されるには、
①ガバナンス強化
a.取締役会の設置
b.社外取締役の設置
c.監査役(業務監査・会計監査共に監査)の採用
②入場者数カウント方法の改善
JFLの規約に則った入場者数のカウントを行い、毎試合資料として保存。
③ステークホルダーの信頼回復
a.信頼回復が読み取れる奈良市からの支援文書提出
b.信頼回復が読み取れる奈良県サッカー協会からの支援文書提出
2020年6月に開催されるJリーグ理事会において、上記①〜③の条件を満たしていれば解除の可否が決定されます。
「可否を決定するのは、あくまでJリーグ。クラブとしてはやれることをやるだけです。今年もし再認定されなくても、来年以降取得できるように努力します」と浜田社長。

「水増しに関わったスタッフは全員残っています。スタッフ全員で新しい奈良クラブにしていきます」と浜田社長。
取材後、編集部で「なぜ観客数の水増しをしてはならないのか」と議論をしてみました。
JFLからJ3に参入するということは、アマチュアからクラブがプロへと変わるということ。観客数はクラブの経営状態を推し量る最も重要な指標です。
そこをごまかすとどうなるでしょうか。本当は改善しなければならない状態を、見逃すことにつながります。
年間3万人は、マスメディアでの露出の少ないJFLのチームにとって、たやすいものではありません。
しかしまた、観客数はそのクラブがどれくらいの人に支えられているかを示す最もダイレクトな数字。たとえそれが無料招待券によって達成されたものだとしても、クラブに関わった人の数であることは確かです。
Jリーグに参入するとは、この「ホームゲームに来てくれる人たちを顧客としてビジネスをして収益化する」という考え方に賛同するということ。クラブ経営の健康状態を自らわからなくするのは自殺行為なのです。
きれいごとではなくここで数字をごまかすのは、模擬試験でカンニングをするようなもの。せめてやるなら、入試でやりなよって。本番はJリーグに参入してからなんだから。
信頼回復には時間がかかるでしょう。
一度甘い汁を吸ってしまったら、二度・三度とやってしまいたくなるでしょう。
社長が代わり、奈良クラブがどう変わったのか、今シーズンは注目が集まります。
本来であれば、3月15日に開幕予定だったJFL。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期になり、いつ開幕するのかわからない状況にあります。
プロスポーツというのは観客が入らなければチームが死んでしまうのです。なので、みんながFC大阪の試合を、新リーグへと動く近鉄ライナーズの試合を観に行くことで生かされるのです。大事なのは、数字です。
FC大阪の開幕戦の予定は、4月26日(日)13:00K.O.vs高知ユナイテッドSC@高知県立春野総合運動公園陸上競技場です。
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