八尾枚方線から見える、白い社屋にゴシック体の社名。東大阪らしい工場が立ち並ぶ中に立地し、金型を打ち付ける独特の金属音を発する。
創業1948年、社員数85人。一見、東大阪のどこにでもあるような製造業。それが「大阪製缶株式会社」です。
製缶なので、缶を作ってるのはわかります。でも缶って言ってもいろいろあるぞ。そんな疑問に答えてくださったのは、社長の清水雄一郎さん39才。おじい様がはじめた会社をお父様から引き継いだ、3代目社長さんです。
「うちはお菓子の缶を作っています。ほら、この缶、見たことありませんか?うちが作ってるんですよ」
▲こ、この缶知ってる!と思わず叫んでしまうほど見覚えのある缶たちと清水社長。
な、なるほど。母が百貨店でよく買ってきてくれた、あの、高級クッキーの缶。これを作っているか!
一口に「製缶」と言っても、メーカーによって得意分野はさまざま。大阪製缶が最も得意とするのが洋菓子、クッキーやゴーフルなどの高級感ある上品でかわいい缶。うちでは小物や裁縫道具などを入れて、愛用していました。
お話をうかがっている食堂もどことなしに洗練されています。絵画を展示したかのようなレイアウト。作業着を着用し、ここで昼ごはんを食べるのか。
「恥ずかしながら、毎日接していると『良い物を作っている』という意識が希薄になるんですよ。食堂をリニューアルした際に、内装をお願いした方から提案いただいたんです」と清水社長。
これ、マグネットで壁につけていて、定期的に入れ替えているんだとか。缶の作品展ができそうです。
▲まるで展示場。いや展覧会場のような社員食堂。
そんな大阪製缶も、売り上げが低迷した時期がありました。菓子メーカーが缶ではなく紙などの簡易包装に切り替えることが多くなったのです。
「缶はパッケージです。そのコストを下げれば、お菓子の売値が下げられるわけですから、当然の流れ。」
子供の頃から「将来は缶屋の社長になる!」と周囲に話していたという清水社長。大学卒業後、他社で働いた後2003年に入社。以後セールスやマネジメントなどを経験しながら一貫して缶に携わり続けました。
転機になったのは2010年、自社ホームページ立ち上げの時です。オリジナルデザイン缶を作ることができる。そんなキャッチコピーで、大きな反響を呼びました。
▲八尾枚方線から見える大阪製缶。ゴシックな社名が素晴らしい。
「やってみてわかったんですが、僕らがあたりまえだと思っていることがお客様にはそうではないんですよ。ロットであったり、納期であったり。」
ネットによってお客さんと近くなり、ビジネスの視野が広がります。缶を実際に手に取る人に、どうやったら喜んでもらえるのか。
次に始めたのは、カンカンマン。缶缶が大好きなヒーローを誕生させました。当時は社長ではなかったので、会社から制作費を出してもらえず。奥さまからお小遣いの前借りをしての誕生です。
そんなに苦労して生み出したのに
「洋菓子店さんの店先に立ったりしましたが、子供って知らないヒーローにはときめかないんですよね。逃げられちゃいました。」
と恥ずかしそうに、でも少し誇らしげに話します。
▲正体は明かせないカンカンマン。
さて、そんな大阪製缶の製造現場を見せてもらいました。印刷された資材を抜き、曲げ、組み合わせてできる缶たち。一連の作業がかっこいい。
曲げの前に下加工を施し、加工後に仕上げをする姿は、細やかで鮮やか。金型も内製しているので、短期間にお客様からのリクエストに応えられるのです。とにかく、かっこいい。
モノづくりに真摯に取り組みを続けているからこそ、新しい時代においても武器になっているのです。
▲生産現場は、心地よい緊張感が。
しかし、堅実に確実に支える現場の皆さんは、今の会社の新しい流れをどう思ってるんでしょう。カンカンマンとか、オシャレな食堂をどう感じているのでしょう。
▲金型を内製するのは、本気の証。
「こないだね、うちの40代の社員が、この食堂の大きなスクリーンとプロジェクタを使ってマリオカートをしていたんですよ。しかもプレーしている姿をスマホで撮ってFacebookにアップしてるんです」
会社の備品でゲームって問題じゃないですか。
「業務時間外ですから問題無いですよ(笑) 缶を開けるときのワクワク感ってすごいでしょ。僕たちは人に感動を与え、誇りを持てる仕事をしている。人の心を動かすには『遊び心』が必要だと伝えたかったからこそ、この食堂ですから。FBに上がった写真を見たときにみんなに伝わったんだって思いました。」
そんな大阪製缶は2014年から「お菓子のミカタ」というサイトをオープン。カワイイ缶が在庫されており、洋菓子店が気軽に缶パッケージを購入できるのです。
▲お菓子のミカタで取り扱う缶たちを片手に、缶の魅力を語る清水社長。
考えようによっては工業製品でしかない缶。そこに大きな価値を与え、自らも進化し続ける大阪製缶。
これをかっこいいと言わずして、何をかっこいいといわんや。
東大阪モノづくりの真髄を見た気がしました。
文・写真:前田寛文 @MaechanYK
■大阪製缶株式会社
住所:大阪府東大阪市岩田町2−3−28
TEL:06-6723-5545
代表者:代表取締役社長 清水雄一郎
従業員数:85名 (2015年5月26日現在)
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