ラグビーの話05 ラグビー選手の引退後と仕事

   

先日、摂南大学を訪れた際。昨年度まで近鉄ライナーズに在籍した天満太進さんがグラウンドでラグビー部の指導をされていました。聞けば、今年度からFWコーチに就任されたとのこと。毎日チームで指導され、練習試合でもチームについています。

今年1月、ライナーズで対ヤマハ発動機戦に出場していた天満選手。

今年1月、ライナーズで対ヤマハ発動機戦に出場していた天満選手。

野球やサッカー、そして最近話題のバスケットボールとは違い、ジャパンラグビートップリーグはいわゆる社会人リーグ。企業の部活のリーグであり、観客やスポンサーからの収益が目的ではありません。しかし、純然たるアマチュアリーグかというと、それも少し違います。

チームの運営は本社の社員の皆さんが行ない、コーチや通訳さんは、ラグビー専門の契約(いわゆるプロ)。選手にも、ラグビー専門選手もいます。この事情はチームごとに違っていますが、多くのチームは社員とプロが混在しています。
「東芝・トヨタ自動車は全員社員」
「サニックスは全員プロ」
「サントリーは日本代表クラスになるとプロを選択できる」
など、それぞれのチームは公式にアナウンスをしないので、まるで都市伝説のようにファンの間で語られています。
ちなみに、日本代表がW杯で南アに勝った時、五郎丸歩選手はヤマハ発動機の社員選手でした。

社員選手と言うと、日本では「プロじゃないのかよ」と揶揄されたりします。「ラグビーは遅れてるなぁ」と言われることもあります。
しかし、日本で長くプレーした外国人選手からは「トップリーグの仕組みはすばらしい」と、少なからず聞こえてきます。
その理由は、選手の引退後にあります。

東芝のリーチ選手。外国出身選手なので、プロ契約と噂されている。

東芝のリーチ選手。外国出身選手なので、プロ契約と噂されている。

どのスポーツでもそうですが、最上級カテゴリでプレーする選手たちには引退があります。
通常、クラブチームの選手が引退をすると選手は
「コーチやスタッフになる」「転職をする」
の2つの道しかありません。
プロラグビー選手でも、多くは後者です。バイト経験もなく30を超えて、初めての就活に苦労するとも聞きます。

しかし、ラグビーの社員選手には「社業に専念」という第3の道があります。選手を終え、会社の業務を行う。トップリーグで戦うチームは、どれも日本を代表するスーパー大企業。大きな組織で、出世していくラガーマンも少なくありません。

ライナーズの前田前監督も、現在近鉄に勤務しながら関西大学のコーチをしている。

ライナーズの前田前監督も、今は近鉄に勤務しながら関西大学のコーチをしている。

トップリーグが発足した2003年からしばらくは、好きなラグビーだけをするプロ選手が学生ラガーマンにとって憧れの的でした。
しかし最近は、社員選手を好む傾向にあるようです。将来のことをしっかり考えてチームを選択しているのです。

とある調査では、トップリーグの社員選手とプロ選手の割合は6:4。6割は引退後も失業することなく働き続けることができるのです。選手寿命が短いラグビーには、最適の仕組みかもしれません。
しかし、この仕組みも万能ではありません。社員トップリーガーの半分が、引退後3年以内に退社しているとの調査結果が出て来たのです。
これが正しければ、トップリーガーの7割が引退後3年以内に職を失っているということになります。これは少なくない数字です。

職場を離れてしまう小さくない要因に、会社への帰属意識が低いことが挙げられます。就職する際、会社ではなくチームを選択している選手も多く、よって職場での居場所がないことも多いと言います。
そのためにも多くのチームは選手に「現役時代に職場で認められるようにしなさい」と伝えています。

一方、メディアでは「仕事でも結果を残して日本代表」などともてはやされることがありますが、それにも疑問が残ります。
単純に考えて、プレーヤーはより多くラグビーに時間を費やしたほうが上手くなります。
働く時間が最初から限られているスタッフに、重要な仕事を任せる職場もまれでしょう。

昨年度でキヤノンを退団した元日本代表の小野澤宏時さんも、トップリーガーとしてのキャリアスタートはサントリーの社員選手。しかし数年後にプロ契約に変更すると、自由な時間を使って大学や大学院で勉強していたといいます。今年の4月からは日本体育大学の博士課程。2018年の国体メンバーとして福井県から選手として強化指定を受けてもいます。

元日本A代表で、現在ステーキハウスの経営をするキムヨンデさんに、引退を決意した理由を聞くと
「ラグビー以外にやりたいことがあって、今ならできると思ったから」
と返ってきました。スポーツ選手という枠にはめなければ、自然な転職理由です。

お店の前で立つキムヨンデさん。「肉を摂取するノウハウ」に基づいたお店だ。

お店の前で立つキムヨンデさん。「肉を摂取するノウハウ」に基づいたお店だ。

私たちファンは、退団情報を見ると
「クビになった」
と思いがちです。しかし若い彼らは、ラグビーと同じくらい魅力的な世界に新たに挑戦するのです。

その挑戦の武器となるように、選手が選手である間に、選手や組織人としてではなく、一人の仕事人として力をつける。
これは今流行の「キャリアデザイン」にもつながります。

契約形態にこだわらず、今を楽しみながらキャリアを積み上げられる仕組みをラグビーが用意できれば。
組織に属することが、加速度的に意味をなさなくなっている時代です。組織だのみだったラグビー界から、スポーツと仕事との新しい関わりを社会に提示する。
これこそが働き方改革ではないでしょうか。


<週ひががお届けするラグビーの話 バックナンバー>

ラグビー選手の
引退後と仕事
2017/7/05
プール分け抽選会が示した
日本ラグビーの義務と新たなる夢
2017/5/13
大阪教育大学
ラグビー部の挑戦
2017/3/21
セブンズの立ち位置と
関西セブンズ
2017/3/9
ラグビー日本代表と
サンウルブズについて
2017/3/1
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編集長 前田

編集長 前田東大阪探検隊隊長・編集長

投稿者プロフィール

特定非営利活動法人週刊ひがしおおさか代表編集長兼東大阪探検隊隊長。
ふとした思いつきからはじめたWEBサイトが、13年。
これからは地域に嵐を呼びます。覚悟しろ!

好きなモノ:花園近鉄ライナーズ、阪神タイガース、競馬、ゲーム、プラモデル、楽でお金になる仕事。
嫌いなモノ:愛、本物

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