先日、摂南大学を訪れた際。昨年度まで近鉄ライナーズに在籍した天満太進さんがグラウンドでラグビー部の指導をされていました。聞けば、今年度からFWコーチに就任されたとのこと。毎日チームで指導され、練習試合でもチームについています。
野球やサッカー、そして最近話題のバスケットボールとは違い、ジャパンラグビートップリーグはいわゆる社会人リーグ。企業の部活のリーグであり、観客やスポンサーからの収益が目的ではありません。しかし、純然たるアマチュアリーグかというと、それも少し違います。
チームの運営は本社の社員の皆さんが行ない、コーチや通訳さんは、ラグビー専門の契約(いわゆるプロ)。選手にも、ラグビー専門選手もいます。この事情はチームごとに違っていますが、多くのチームは社員とプロが混在しています。
「東芝・トヨタ自動車は全員社員」
「サニックスは全員プロ」
「サントリーは日本代表クラスになるとプロを選択できる」
など、それぞれのチームは公式にアナウンスをしないので、まるで都市伝説のようにファンの間で語られています。
ちなみに、日本代表がW杯で南アに勝った時、五郎丸歩選手はヤマハ発動機の社員選手でした。
社員選手と言うと、日本では「プロじゃないのかよ」と揶揄されたりします。「ラグビーは遅れてるなぁ」と言われることもあります。
しかし、日本で長くプレーした外国人選手からは「トップリーグの仕組みはすばらしい」と、少なからず聞こえてきます。
その理由は、選手の引退後にあります。
どのスポーツでもそうですが、最上級カテゴリでプレーする選手たちには引退があります。
通常、クラブチームの選手が引退をすると選手は
「コーチやスタッフになる」「転職をする」
の2つの道しかありません。
プロラグビー選手でも、多くは後者です。バイト経験もなく30を超えて、初めての就活に苦労するとも聞きます。
しかし、ラグビーの社員選手には「社業に専念」という第3の道があります。選手を終え、会社の業務を行う。トップリーグで戦うチームは、どれも日本を代表するスーパー大企業。大きな組織で、出世していくラガーマンも少なくありません。
トップリーグが発足した2003年からしばらくは、好きなラグビーだけをするプロ選手が学生ラガーマンにとって憧れの的でした。
しかし最近は、社員選手を好む傾向にあるようです。将来のことをしっかり考えてチームを選択しているのです。
とある調査では、トップリーグの社員選手とプロ選手の割合は6:4。6割は引退後も失業することなく働き続けることができるのです。選手寿命が短いラグビーには、最適の仕組みかもしれません。
しかし、この仕組みも万能ではありません。社員トップリーガーの半分が、引退後3年以内に退社しているとの調査結果が出て来たのです。
これが正しければ、トップリーガーの7割が引退後3年以内に職を失っているということになります。これは少なくない数字です。
職場を離れてしまう小さくない要因に、会社への帰属意識が低いことが挙げられます。就職する際、会社ではなくチームを選択している選手も多く、よって職場での居場所がないことも多いと言います。
そのためにも多くのチームは選手に「現役時代に職場で認められるようにしなさい」と伝えています。
一方、メディアでは「仕事でも結果を残して日本代表」などともてはやされることがありますが、それにも疑問が残ります。
単純に考えて、プレーヤーはより多くラグビーに時間を費やしたほうが上手くなります。
働く時間が最初から限られているスタッフに、重要な仕事を任せる職場もまれでしょう。
昨年度でキヤノンを退団した元日本代表の小野澤宏時さんも、トップリーガーとしてのキャリアスタートはサントリーの社員選手。しかし数年後にプロ契約に変更すると、自由な時間を使って大学や大学院で勉強していたといいます。今年の4月からは日本体育大学の博士課程。2018年の国体メンバーとして福井県から選手として強化指定を受けてもいます。
元日本A代表で、現在ステーキハウスの経営をするキムヨンデさんに、引退を決意した理由を聞くと
「ラグビー以外にやりたいことがあって、今ならできると思ったから」
と返ってきました。スポーツ選手という枠にはめなければ、自然な転職理由です。
私たちファンは、退団情報を見ると
「クビになった」
と思いがちです。しかし若い彼らは、ラグビーと同じくらい魅力的な世界に新たに挑戦するのです。
その挑戦の武器となるように、選手が選手である間に、選手や組織人としてではなく、一人の仕事人として力をつける。
これは今流行の「キャリアデザイン」にもつながります。
契約形態にこだわらず、今を楽しみながらキャリアを積み上げられる仕組みをラグビーが用意できれば。
組織に属することが、加速度的に意味をなさなくなっている時代です。組織だのみだったラグビー界から、スポーツと仕事との新しい関わりを社会に提示する。
これこそが働き方改革ではないでしょうか。
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