週ひがメンバーが好きな本を紹介するだけの企画。第7回は編集長・前田が陳舜臣「中国五千年」を紹介します。
編集長前田、大学は工学部卒ですが歴史が大好き。そもそも理系進学をしたのも、高校生のときに好きだった女の子の気を引きたかったからです。しかし嗜好はそう簡単に変えられません。あの頃も、そして47歳の今でも根っからの文系。特に中国の歴史が大好きです。そんな僕を作ってくれたのは陳舜臣という作家でした。
国籍は台湾、生まれは神戸、中国本土(中華人民共和国)に帰化したものの天安門事件を期に日本国籍を取得した、複雑なバックボーンを持つ人気作家です。
編集長前田は子供の頃、親に買ってもらった伝記をよく読んでいました。織田信長とか、豊臣秀吉とか。だから小学6年生の社会科で歴史を習ったときは楽しくて楽しくて。
陳舜臣の初期はミステリーが多く、デビューも華僑社会を描いたミステリー「枯草の根」。1968年に「青玉獅子香炉」で直木賞を受賞し、「中国人が登場する小説はヒットしない」というジンクスを破ってその後も数々のヒット作を送り出します。
それと同時に、彼は自身の背景にある中国文化に根差す中国が舞台の歴史小説を書くようになります。
中学2年になった編集長前田のもとへ、少し分厚めの歴史の教科書がやってきます。教科書好きだった僕は、いつもと同じように授業が始まるまでに隅から隅まで読み込み、ある発見をしたのです。
なんだこの「新」って国。
小学生の知識で知っている中国の国は
漢倭奴国王の「漢」
遣隋使、遣唐使から「隋」と「唐」
元寇で「元」
日明貿易の「明」
日清戦争で「清」
だけ。
ギリギリ「前漢」「後漢」は学校の先生から聞いてはいたけれど、その間にあるちっちゃい「新」ってなんだ?
悶々としていた時、家の近所の「下村書店」で発見したのが、今日おすすめの「中国五千年」でした。
「だいたいなんやねん五千年って。中国は四千年ちゃうんかい。」
と無知な中学生は心の中で悪態をつきつつ、あふれる知識欲に突き動かされ、購入しました。
陳舜臣の歴史小説の特徴は、歴史をドラマチックには描かないこと。
学校の授業のようにある種淡々とした文体で、事実を積み重ねて、ある側面からの真実を読者に提示します。
漢の高祖・劉邦が建てた漢は全盛期を超えると外敵と内部的腐敗で制度疲労を起こし、外戚(皇后の実家)の「王莽」に乗っ取られます。王莽が作った「新」は非現実的な理想論ばかりの政策が多く、国が大混乱。
各地の豪族が急激に台頭すると、中国大陸を舞台に主導権争いが勃発します。
そして、最後に残ったのは
当時星の数ほどいた劉邦の末裔の「劉秀」
だった。彼が後漢の光武帝です。
中の上と言える家庭に育ち、若い頃に人並みの出世と美人の妻を得ることが目標だった積極さに欠ける普通の青年は、失敗を繰り返しながら成長し皇帝へと駆け上がって行きます。
彼が建てた国は、世界国家たらんとした前漢とは違い明確な拡大路線は取りませんでした。
現実的な政策が多く、それでも前漢同様200年続く王朝になる。
本当にたくさんの著作を残した陳舜臣が、頻繁に使っていたのは
「歴史は繰り返しません。しかしパターンはあるのです」
という言葉。
人間のやることに同じはない。繰り返すなんてもってのほかだ。しかし、似た状況だと、人間は同じ選択をすることがある。
流れに乗ってしまうのも、流れに逆らうのも、人間の意思次第です。
歴史とは、人間が生きた記録。ドラマではない、当たり前の生きた人間が積み重ねてきたものです。
気になった方はぜひ「中国五千年」を手にとってください。そして、陳舜臣の傑作「小説十八史略」や「中国の歴史」「阿片戦争」などにも挑戦してください。
歴史とは人間の生きた記録です。
名前は残らなくても、僕たちの毎日も歴史の一つなのです。
【ほかの本紹介はこちらから】
01 オールザットウルトラ科学 鹿野司
02 愛するということ エーリッヒ・フロム
03 山川出版社 世界史B用語集
04 誰も戦争を教えてくれなかった 古市憲寿
05 マンガは今どうなっておるのか? 夏目房之介
06 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっぴりブルー ブレディみかこ
07 中国五千年 陳舜臣
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。